日本における株式市場の急速な発展に立ちはだかる壁

By Michael Kim
日本においても、受注した注文を社内クロスや取引所外クロスによって執行することは日常的に行われている。1998年、日本の規制当局は証券会社が夜間運営する私設取引システム(PTS)の導入を承認。2005年には、これらのPTSがザラ場中の取引を行うことにより伝統的な取引所と競争し始め、事実上PTSは取引所と同じ様に運営されるライトプールに位置づけられた。PTSは、詳細に規制されたルールに則り透明性と優位性を持って運営されており、例えば、あるPTSでは呼値の刻み幅は取引所の10分の1と定めている。ただPTSにとって規模拡大の壁となるのは、市場シェアを10%以上にできないことである。シェアがいったん10%に達し、それ以上を目指すのであれば、「取引所」として申請を行わなければならない。

日本で本格的にダークプールが提供され始めたのは2005年。ここ数年、海外の大手証券に加えて、国内大手でももはやダークプールは標準的なサービスの一つとなっている。グローバル企業は、欧米で培ったダークプール、SOR(スマートオーダー・ルーティング)の経験実績と投資を強みとして、日本にもダークプールを導入し、顧客サービスの充実性を高めるために懸命である。

10年以上にわたってPTSの歴史および社内クロスに対する規制環境が成熟してきたにもかかわらず、このような代替取引市場が東京証券取引所から取り込むことができたシェアは1~2%程度に留まっている。代替取引市場のシェアが伸び悩む理由は一体どこにあるのか?流動性を取引所外へと促す要素は何か?

SORのインフラ– PTSおよびダークプールに自由にそして瞬時にアクセス可能にするには、SORは必要不可欠。SORは、利用可能な執行市場を常時チェック、最も有利な価格を見つけ出し、社内および市場のさまざまな規則に基づいて最適な執行を行う。SORは、ダークプール、ライトプールのどちらにおいても効率的に作動しなければならない。それには、制約、アンチゲーミング・ルール、各取引市場によって異なるコスト構造などそれぞれの市場に対応する必要がある。

海外大手証券は、既に欧米でSORを提供しているため、SORを日本に導入することに抵抗はない。既に持っているインフラをローカリゼーションすれば良いからだ。しかし、同様のシステムをゼロから立ち上げるのは困難を極める。その結果、海外勢大手が日本でSORを提供している反面、国内勢でSORの提供に踏み切れたところは一握りにしかすぎない。当然のことながら、競争力のあるSORを提供できている個人顧客専門の証券会社またはオンライン証券はほとんどない。

最良執行方針

日本では、どの執行契約にも最良執行方針が義務付けられている。だが米国のRegNMSや欧州のMIFIDのように、最良執行の詳細を定めた統一的な規則は存在しないため、執行契約は業者ごとに異なることも少なくない。これらの契約では、多くの場合、東証、大証などの主要取引所を最良執行市場として想定している。そのためダークプールを運営している企業の多くでは、最良執行契約の見直しを続けているものの、残念ながら現在のところ最良執行市場を複数の市場へと拡大させる規制面での強いインセンティブは存在しない。

資金運用

国内の年金基金や従来の基金の多くは、東証または大証などの取引所で執行することが義務づけられている。PTSで執行を行うことは規約違反となる為PTSでの執行を可能にするためには、規約を改正する必要がある。しかし、PTSの現状を考慮すると、規約を変更するに至るメリットを得られるに至っていない。

規制環境

2009年まで、日本の金融庁はPTS内での空売りについて言及を避けてきた。その間、各証券会社はそれぞれの見解のもとでPTSの運営に当たってきた。2010年3月、金融庁は、空売り規制についてはPTSにおいても取引所と同じような 対応が求められることに言及した。これは、PTSへの発注を限定的にしPTSの成長を止めかねないものとなった。また、東京証券取引所のアローヘッド導入により、市場集中原理が再燃。追い討ちをかけるようにTOSNETを通しての取引の報告がダークプールに義務付けられるなど、、取引所外で流動性を求めるメリットが限定的となる。 潜在的な制約が増えたことは、市場全体に陰を落とし、短期的にPTSの成長を阻害する要因となりかねない。

マーケットメーカー

欧米のMTF(マルチラテラル・トレーディング・ファシリティ)においては、十分な流動性を確保する上でマーケットメーカーは必要不可欠な存在となっており、執行市場に提供する流動性に対して、通常はリベートが支払われる。それに対して日本の執行市場では、マーケットメーカーが提供する流動性に対してインセンティブはなく、多くのマーケッメーカーは、リスクヘッジとコストカバーのため、大きなアルファやスプレッドをとりに行かなくてはならない。

PTSの細分化

日本では現在6つのPTSが存在する、うち3つは個人投資家のみと依然閉鎖的。その他のPTSとしてはInstinet、カブドットコム、SBI JapanNextと、近日中サービスの提供を開始予定のChi-Xジャパンがある。明らかなマーケットリーダーの存在はなく、PTS全体でも流動性はTSEの1~2%にすぎない。

PTSおよびダークプールが直面している成長阻害要因をいくつか検証してきた。代替執行市場の活性化には、欧米並みの規制緩和が必要。しかし、全面的な見直しには時間がかかるであろう。

JSCCによる決済

2010年7月から、PTSで執行された取引は、株式会社日本証券クリアリング機構(JSCC)を通して清算することができる。これにより、PTS取引における受け渡しが保証されることから、リスクは限定的となり参加者の安心感は広がる。さらに、執行から決済までがSTP(ストレート・スルー・プロセッシング)となり、非効率な事務処理も軽減される為、PTSをあらたに代替執行市場として参加しやすい環境も整いつつある。

取引コストの削減

取引量を増やすには、PTSがその手数料を劇的に引き下げる必要がある。東証の取引手数料は約0.2bps、多くのPTSはTSEのコストと連動させた価格設定だ。PTSでの取引コストは、流動性を供給される側には注文に対し手数料は0.2bps以下、流動性を提供する場合には手数料をゼロとすべきであろう。

マーケットメーカーに対するインセンティブ

PTSはマーケットメイクをを行う会社に対してはインセンティブを与えるべきだと思われる。日本ではリベートの提供に対しては規制上の制約がある。しかし、システマチックに市場に流動性を提供できる参加者に対して、単にリベートを支払うだけでなく、もっと柔軟性をもって多様なインセンティブを喚起する構造を作っていくことが肝要であろう。

流動性の集約

流動性を集約するというコンセプトは特に目新しいものではない。しかし、現状ではシステム改良余地がまだまだあるスマートオーダー・ルーティングの技術水準を考えると、ある一つのPTSが他のPTSの注文をも取りまとめ、その先のルーティング機能もこなすことで、PTSが流動性の集約場所となって機能し、そのことで多くの市場参加者が恩恵を受けることができる、というのは意味のあることと思われる。

すなわち、必要とされる技術を持たない参加者に代わって、複数のPTSに簡単に接続できる、というプロセスがここに実現

日本の現在の規制環境と比較的低い取引コストを考慮すれば、取引所外の執行市場をもっと積極的に活用できる市場構造を追求できるはず。従来の常識にとらわれない発想によって、新たな流動性に着目したビジネスモデルの構築に向け、前向きに投資する覚悟があれば、かなりの市場シェアを獲得できる機会がそこには存在すると考える。するのだ。

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