日本のカメ型アプローチの強み – 超スローペースのアプローチは 日本での最良執行に向けた最高の方法だろうか?

By Peter Twist

ウ サギとカメの寓話による教えのとおり、スタートダッシュで一番となることが必ずしも最高の結果をもたらすわけではありません。トレーディング・コミュニ ティのメンバーの多くは、日本の市場はその重要性にもかかわらず、国際的な水準から大きく遅れを取っているという見方をしています。しかし、IND-X Securites社のピーター・ツィスト氏のレポートのように、「静観して待つ」というアプローチが日本の成功には必要なのかもしれません。

最 近では、トレーディングについて議論をすれば、必ず様式化された「最良執行」についての持論を持ち出す人がいるように見受けられます。独立した執行場所の 数が右肩上がりに増加するにつれ、最良執行に対するこだわりが世界的な流行りとなっているようですが、これはそもそも目新しいことなのでしょうか?ファン ド・マネジャーがさまざまなレベルで直接関与するようになったことにより、トレーディング・コミュニティではこうした議論が常に、ほぼ間違いなく最前線で 行われてきました。しかしここでまた、急に関心が高まっているのはなぜでしょうか?最良執行についての話題に関する基本的な問題には、何か根源的な意味が あるに違いありません。では、「最良執行」とは何でしょうか?

こ の問いには誰でも答えることができると思いますが、全員を満足させてくれる唯一の定義はありません。また、異なる動機がいくつも存在することによって、解 釈の幅も大きくなります。ある程度のコンセンサスが期待できると思われるセグメントの中でさえも、意見は細かく分かれます。例えば、長期の保有戦略をとっ ている機関投資家のファンド・マネジャーと、逆に、レイテンシーを気にしながら投資を行う個人投資家のような短期のモメンタム投資家とでは大きな違いがあ ると思われます。最良執行の定義だけでは、ある執行場所をわざわざ選ぶ本質的な理由にはならないとはいえ、全員の合意が得られなければ、最も熱心なグルー プが利己的に執行場所を支持することになりかねません。

日本は差を縮めているか?
こ れまで、新しい取引形態の導入において日本が先陣を切ったことはありませんでした。むしろ、日本では(地域の小規模な取引所のいくつかも含め)主要な証券 取引所よりも対応が遅く、さらに代替取引という面では、今でもほとんど提供されているサービスはありません。現在、PTS(私設取引システム)や同様の認 可取引所が利用可能となり、大手のブローカーは競合するいくつかの取引場所で運用を行ってはいるものの、成功の度合いはまちまちとなっています。

日 本がこれまで持ち続け、少なくとも近い将来に持ち越すであろう問題の中心は、国内/オンショアと海外/オフショア間のトレーディング・モデルの分断にある と考えられます。皮肉なことに、現地当局が新たな最善の取引方法を海外のブローカーに強制しているわけではなく、それどころか日本で営業している海外のブ ローカーの多くが市場に対して変革を要求しています。世界経済で日本が果たしている役割の重要性を考えると、この状況には期待と同じくらいの驚きを覚えま す。

海外と国内の利便のバランス
し かし国内では、インターネットをベースとしたいくつかの個人向けプラットフォームが動き始めたことを背景に、世界で起こっている変化が更にゆっくりとした ペースで進みつつあります。近年、日本においては個人投資家は市場を牽引してきた存在であり、規制当局が新しいアイデアと国内外の利便の間にはバランスが 必要と考えるのは当然のことです。問題は、日本にとってそれがどのような意味を持つかという点です。要は、高度に自動化が進んだ新しい取引形態であって も、日本で牽引力を伴うほど著しい進展を見せるようになるまでには時間がかかるということです。大手投資機関の努力により、新たな取引形態は日本で導入は されましたが、これによって満足したのは取引人口の3分の1に過ぎませんでした。

国 内経済の問題は見過ごされるべきではありませんが、日本が既存の取引所をより厳しい競争の中へ解放するつもりであれば、需要の程度とこの先の長い道のりを 認識する必要があります。つまり、市場への参加コストを下げるためにはまだやるべきことがあり、現在提唱されており、他の国際市場で取引面での革新の原動 力となっている執行サービスとリサーチ・サービスのアンバンドリングといった変化を受け入れるためにも、まだやるべきことがあるということです。

と はいうものの、日本にはメリットもあります。他の国際市場で広く見られる取引はまだ導入されておらず、そのために清算や決済の手続きは比較的単純なフロー が維持されています。グローバルな変化に日本が後れを取るべきではないことは明白ですが、その慎重で抑制されたアプローチは必ずしも悪いものではないとい えます。

国内資本へのアクセス
日 本にいる外国の投資家にとっては、巨額ではあるものの大体が保守的な国内の資金にいかにアクセスするかが、最も高いハードルとなっていました。国内資金は 主に投信ファンド(ミューチュアル・ファンド)または特金ファンド(投資信託)を通して保有されており、これらの商品はそのオンショア的性質のために、真 に進展させようとすれば、複雑でコストのかかるものとなっています。例えば、こうした投信や特金といったオンショア・ファンドが取引に約定平均値を受け入 れ始めたのはここ数年のことです。それまでは執行結果の数字をにらみながら取引を行っていました(つまり、ファンドは証券コード6758のソニー株を 10,000株購入しようとしても加重平均値の25.11円では買うことはできず、実際の単元単位で購入し、取引を計上していたため、1,000株単位で 10回に分けて購入しなければなりませんでした)。

日 本では、今ではDMA(ダイレクト・マーケット・アクセス)が認められるようになったため、いくらか進展が見られるようになり、取引のレイテンシーとキャ パシティが向上しました。しかし、FIXの導入が徐々に進んできたこともあり、将来起こりえる進展の内容について十分に検討すれば、まだまだ重大な課題が 残っています。

アンバンドリングの世界への参入
最 近の国際的な変化を背景に大きなパワーとなっているのは、ステークホルダーの負担で行うサービスについて、あるいはステークホルダーが支払う報酬に関して もっとオープンにすべきという、ファンド・マネジャーに対する要求です。日本ではまだアンバンドリングの概念を受け入れるに至っていませんが、規制当局は 問題点を詳細に洗い出しており、今は日本でこのプロセスを導入するための最善の方法を検討する準備を進めている段階です。この件に関し、金融庁から今年の 年末までに指示が発表されると見られており、市場は期待を持って待機しています。

国 際的な取引市場においては、コミッション・シェア契約(CSA、米国ではCCS/クライアント・コミッション契約)の形態がすでに一部で確立されており、 オルタナティブ投資に関するリサーチ・サービスによって世界中で見込める利益は大幅に増加すると思われます。しかし、どちらもまだ日本では導入されていま せん。これら二つの領域は、日本のブローカーに大きな恩恵をもたらすものです。オルタナティブ・リサーチを行うことで、まさにその性質上、競合する大手投 資機関よりも啓蒙的で有益な考えを持つことが可能となります。その意味では、リサーチ会社がCSA(最新の技術を用いて執行を行い、手数料分は分離口座に 保有される契約)を通じて商品に対する報酬を受け取ることができれば、リサーチ会社では現在手にしている以上の報酬を受け取れることに気がつくでしょう。 CSAを利用すれば、報酬の中に質の劣る売買執行サービスを含める必要がなくなるため、リサーチ・サービスの価値を高く維持することが可能となります。

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