日本から一言

3月11日の大地震が示唆する、日本の電子トレ ーディングの未来についての考察

少年時代の私は、コンピューターが 好きだった。 毎年新しいパソコンが 発表されるたびに、どんな新機能が あるのかわくわくしたものだ。 私の 最初のパソコンは、NEC PC-6001MK2 というパソコンで、日本のパソ コンとして初めて合成音声によるス ピーチ機能がついていた—64kbの メモリとカセットテーププレイヤーが 標準装備だった。 それから20年以 上、コンピュータの世界はとても刺激 的な世界であり続けた。 次々と新し い発明が、新機能が追加され、新し い仕組みが発表され、たくさんの私 のような人間を魅了し続けた。 コン ピュータの進化は今も続いている・・・しかしすでにそこには驚きはない、 ハードディスクがテラバイトになった と言われても、ふーん、というだけだ。 コンピュータの世界はすでに成熟し てしまったように見える。

同じことが、電子トレーディングの世 界にも言えないだろうか? 9年前、 私が日本でFIXエンジンというもの を営業しはじめた頃、「STP」、「電子 取引」、「FIX」は業界のキーワードだ った。 FIXインターフェースを持つと いうことは、エキサイティングなこと であり、取引所はFIXインターフェー スの導入を、実際のニーズもベースと なってはいるが、マーケティングの一 環として先進性をアピールするとい う意味もこめて、導入した。 電子トレ ーディングは業界のフロンティアで あり、私はこの9年間で様々なフロン ティア・スピリットを持った人達と出 会う機会に恵まれた。 電子トレーデ ィングのリンクがFIXなどを通して確 立されると、PTSやアルゴリズム、ス マートオーダールーティングやダー クプールなど新しいサービスやスト ラテジーが生まれ、そして技術革新 にともなってコロケーションや低レイ テンシーの製品が登場し、そしてレー スは続いている・・・。 すでにマイクロ 秒のレイテンシーは、驚きではなくな っている。 では、レイテンシーがナノ 秒レベルになったら、驚きがあるのだ ろうか? おそらくは驚きはないだろ う。 もちろん、電子トレーディングに より利益を生み出す機会はまだまだ あるが、すでに電子トレーディングと いう世界自体は成熟しているように 見える。

成熟という観点からさらにひとつの 例として、日本という国がある。 日本 はすでに社会的にも経済的にも成熟 した国だ。 高度なインフラが設立さ れ、確立されている国ではあるが、高 度成長期はとうの昔に過ぎている。 国としては、停滞感が漂っている— 次々と変わる首相、出生率の低下、経 済の低成長、巨大な国の債務、世界 的な競争の中における貿易黒字の減 少、凶悪犯罪の増加、など、数えればきりがない。

そして、今年の3月11日、大地震が 日本を襲った。 事態の重大さに反し て、東京では人々は意外なほど冷静 だった。 福島原子力発電所に関す る、様々なニュースや憶測が飛び交う 中、人々はなるべく通常通り仕事をし ていた。 私は、ここで地震がどのよう な深刻な被害を日本に与えたかとい うことを、再度論じるつもりはない。 私が、言いたいのは、多くの人々が、 この大地震を変化 の兆しとみている ということだ。

この記事の執筆時点で、すでに2か 月以上がたち、復興の兆しはあちら こちらにある。 この規模の災害にお いては、当然政府や国、自治体といっ た、公的機関による支援だけでは被 災された人々への支援としては不十 分だ。 被災した人達の生活は、ボラ ンティア、家族、近隣の人々、友人な ど多くの人達によって支えられている。 全国には2000以上の避難所 があり、それぞれの避難所における 物資の状況などは様々だ。 私が知っ ている、とある避難所は、かなり恵ま れている—食べ物、トラック、自転車、 など様々な生活必需品がボランティ アの人達によって提供され、最近で は子供たちが読む漫画本までどんど ん送られている。 毎週継続的に、こ の避難所を支援するグループが訪 れ、様々な必需品を提供する―そし て避難所の人達は物資の欠乏した なか、精一杯の感謝をこめて、もてな してくれる。 避難所の人達と支援者 達は、強い信頼の絆で結ばれている。 一方この避難所の隣の避難所は、そ れほど物資には恵まれていない状況 にある。 この避難所の人々は、寄付 や物資を避難所のゲートで受け取 るが、決してボランティアや支援者を 避難所の中には招き入れない。 ここ では“信頼”がない。 地震が起きるま で、日本はどんどん個人主義、孤立主 義に向かっていた。 ところが、地震の 後、日本の人々は生き残るために、再 びつながり、お互いを支え合う方向 に向かい始めた。 成熟しきった日本 という国が、新しい方向に動き出した ように見える。

電子トレーディングに話を戻そう。 FIXプロトコルの普及でもわかるよう に、すでに業界はグローバル規模で 電子的につながっている。 しかし、取 引所の合併、高頻度取引(HFT)、ダ ークプール、SOR、アルゴ取引の先に 何があるのか、その未来はとても不 明瞭だ。 その次のステップは何だろ う? どれだけシステム的につながっ ていても、どれだけ技術的に優れたシ ステムを持っていても、どれだけこの 四半期に利益を上げていても、この 不確実な世界において、今求められ ているのは、”信頼“なのではないだろ うか? システムがつながった今だか らこそ、今まで以上に人と人が会社 と会社が”信頼“の絆を確立していく ことが必要なのではないだろうか? 日本の人々は、大地震という厳しい 教訓からそれを学びつつある。

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